大腸癌

消化器・肝移植外科における大腸がんの外科治療について

1.診療について

大腸疾患、特に近年増加傾向である大腸がんの手術治療を行っています。
当科では開腹手術に比べて小さな傷ですむ腹腔鏡下手術を積極的に取り入れ、患者さんにやさしい手術を行っています。
腹腔鏡下手術では傷が小さく、痛みが少ない、手術後の回復が早いなどの特徴があります。
またすべての腹腔鏡下手術には日本内視鏡外科学会で認定された技術認定医(大腸)が関わり、質の高い手術を行っています。
また患者さんのニーズに応じてより傷が少ない単孔式腹腔鏡下手術(一つの傷で行う手術)も導入しています。

肛門に近く進行した下部直腸癌では、欧米においては手術前の化学放射線療法(抗がん剤治療+放射線治療)が標準治療ですが、本邦では手術+骨盤内リンパ節郭清(骨盤内のリンパ節を摘出)が標準治療とされています。
当科では自律神経を温存した術式を早くから取り入れ、術後の排尿・性機能障害を防止しています。
また進行した腫瘍に対しては術前化学療法(手術前に抗がん剤を行う)を導入し、がんを小さくしてから手術することにより、できる限り自然肛門を温存し、術後のQOL(生活の質)が悪くならないような治療を行っています。

また、転移が見つかってしまった場合でも当科の肝臓外科チームや抗がん剤を専門に扱う臨床腫瘍科、放射線科の専門医と密に連携を取り、患者さんに最適な治療を心がけています。

担当医の紹介

石部 敦士(いしべ あつし)

  • 日本外科学会 専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会 専門医・指導医
  • 日本大腸肛門病学会 専門医・評議員
  • 日本内視鏡外科学会 内視鏡外科技術認定医(大腸)・評議員
  • 日本ロボット外科学会 Robo Doc certificate 国内B級
  • 日本ストマ・排泄リハビリテーション学会 評議員
  • 日本消化器病学会 専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医

小澤 真由美(おざわ まゆみ)

  • 日本外科学会 専門医
  • 日本消化器外科学会 専門医

鈴木 紳祐(すずき しんすけ)

  • 日本外科学会 専門医
  • 日本消化器外科学会 専門医・指導医
  • 日本大腸肛門病学会 専門医
  • 日本内視鏡外科学会 内視鏡外科技術認定医(大腸)・評議員
  • 日本消化器病学会 専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 専門医
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
  • 日本腹部救急医学会 腹部救急認定医
  • ロボット手術(da Vinci) 術者 Certificate取得

2.診療実績

2019年の手術件数は福浦88件、消化器病センター342件、合計430件とでした。Stage別の5年生存率は結腸癌:I=95.5%、II=86.5%、IIIa=79.6%、IIIb=63.2%、IV=29.8%(手術症例のみ)、 直腸癌:I=92.6%、II=86.1%、IIIa=78.1%、IIIb=59.2%、IV=23.8%(手術症例のみ)となっております。

本年は、大学で研鑽を積んでいた小澤真由美先生(H15年卒)、柿添学先生(H16年卒)、後藤晃輝先生(H20年卒)、福岡宏典先生(H22年卒)の4名が難関である内視鏡外科学会技術認定医に合格いたしました。
今でご指導いただいた先生方、また後輩の先生方のご協力があってのことと感謝申し上げます。 作年度から始めた月1回開催される論文勉強会では、徐々にその成果があらわれ、これまでに計10本の英語論文がアクセプトされました。また臨床研究においてはYCOG新規臨 床研究や全国の他施設共同研究に参加し、新しいevidenceを確立できるよう努めています。

診療においては新しい手術アプローチとして、経肛門からTMEを行うtransanal TME(taTME)やロボット手術が全国的に徐々に普及しつつあります。センター病院では渡邉純を中心としてtaTMEを施行しており、附属病院では2020年1月からda Vinciの最新モデルで あるda Vinci X とXiの2台が導入され、さらに多くの症例でロボット手術が施行できるようになりました。
局所進行直腸癌の治療においては本邦の標準とされているTME+側方郭清のみならず、さらに治療成績を向上させるためTNT(Total neoadjuvant therapy)として術前化学療法・放射線化学療法後にTMEを施行する症例も多くなってきております。
本年も大腸癌治療の成績向上を目指し、手術手技、知識の研鑚、後進の育成を行ってまいります。
(文責 下部消化管グループ 石部敦士)

3.治療成績

5年生存率(5ねんせいぞんりつ)とは、ある疾患の予後を測るための医学的な指標であり、診断から5年経過後に生存している患者さんの比率を示します。
治療効果判定のために使われることが多いですが、あくまでも集団を対象とした指標ですので、それぞれの患者さんの余命ではありません。

4.臨床研究について

当院では新しい治療を目指すための先進的な臨床研究を数多く行っています。
また横浜市立大学消化器腫瘍外科学ではYokohama Clinical Oncology Group(YCOG)に所属し、他の参加施設と共に多施設共同研究を行っています。
以下にその中で大腸癌に関連した研究テーマを記載します。

【結腸癌に対する臨床研究】
  • YCOG1305(PROBE study)閉塞性大腸癌に対するFOLFOXを用いた術前化学療法の臨床第Ⅱ相試験
  • YCOG1402(SOAP study)Stage III大腸癌治癒切除例に対する術後SOX療法の投与量および治療スケジュール最適化のための探索的ランダム化比較第II相試験
  • YCOG1404 腹腔鏡下大腸癌手術におけるエノキサパリン投与の有効性および安全性に関するランダム化第Ⅱ相試験
  • JFMC46-1201 再発危険因子を有するStage II大腸癌に対するUFT/LV療法の臨床的有用性に関する研究
  • 大腸癌研究会プロジェクト研究 結腸癌の至適切離腸管長に関する前向き研究
【直腸癌に対する臨床試験】
  • 局所進行直腸癌に対するmFOLFOX6+Panitumumab併用周術期化学療法の臨床第Ⅱ相試験
  • 治癒切除可能直腸癌における内視鏡手術支援ロボット手術の安全性および有効性に関する研究
【切除不能大腸癌に対する臨床試験】
  • YCOG1309 高齢者切除不能進行再発結腸直腸癌に対するXELOX+ベバシズマブ併用療法におけるオキサリプラチンの至適休止時期の検討

これらの臨床研究に関しては、患者さんのご理解とご協力をいただきながら進めてまいります。