治療実績・研究実績

生 体 肝 移 植

肝移植について

臓器不全
生命維持に必須である複数の臓器が機能を果たさなくなった状態を多臓器不全といいます。生命維持に必須の臓器とは、心臓、肺、腎臓、肝臓、脳のことです。
各臓器を機械に例えると、
心臓⇒血液を送り出すポンプ
肺⇒ガス交換装置
腎臓⇒血液ろ過
肝臓⇒複雑な化学工場
脳⇒コンピュータ-
に相当します。

現在の医学の発達により、これらの臓器が機能不全に陥っても、“人工臓器”が開発されつつあります。例えば心不全の患者様の中には、“人工心臓”が、腎不全の患者様には“人工透析”を応用することで、社会復帰をされている患者様もいます。ところが、肺、肝臓、脳は、その機能が複雑のため、臨床応用には、ほど遠い状態です。
肝臓が機能しない状態を、肝不全といいますが、この状態では、肝移植を、治療の選択肢に考慮する必要があります。

肝移植の歴史
 骨髄以外の全ての臓器移植に言えることですが、臓器移植というのは長い間、脳死もしくは心臓死、要するに亡くなった方から、その方がもう使う必要のない臓器をいただいて行うものでした(臓器提供者のことをドナーといいます)。したがって、脳死臓器移植の場合、臓器を受け取る方(レシピエントといいます)には移植手術に伴う様々なリスク、つまりは拒絶反応や感染症など合併症などが起こる可能性はありましたが、ドナーになられた方は既に亡くなっているため、ドナーにとっては失うものがない医療でした。つまりは、臓器移植のそもそもの考え方は亡くなった方の臓器をいただき、その臓器が機能不全に陥った方へ植え込む、つまり移植して臓器不全を治療する、というものでした。
 世界で始めての肝移植は1963年にアメリカで行われましたが、当時は、脳死ドナーから肝臓を頂いて行われました。この世界初の肝移植を契機にアメリカで脳死肝移植がこの時期盛んに行われましたが、肝移植を受けて元気に退院する方の割合が20-30%と非常に成績が悪く、“肝移植は医療として成立するものではない”という考えが1980年代まで根強く残り、脳死肝移植は欧米の極1部の病院でしか行われていませんでした。しかし、臓器移植の重要な合併症の1つである拒絶反応を抑える免疫抑制剤の進歩により1980年代に入ると、脳死肝移植の成績は急激に向上し、脳死肝移植を受けた方の5年生存率が約80%まで改善され、1984年にアメリカで“肝移植は肝機能不全に陥った患者さんへの立派な治療である”という宣言がなされ、以後欧米を中心に脳死臓器提供のネットワークの構築が為され、以後欧米で盛んに行われるようになり、今日に至っています。しかしながらアジア諸国では、文化的、宗教的、様々な側面から“脳死”という概念が受け入れがたく、アジアでの臓器移植の発展は1990年代まで待たなければなりませんでした。

生体肝移植はなぜ生まれたか
 1984年以来脳死肝移植は欧米諸国で盛んに行われるようになり、末期肝疾患に対する標準的治療となりました。しかし、脳死肝移植が標準的治療になってもなお、肝不全を発症しても肝移植が受けられない患者さんが多数いました。それは、末期肝疾患に陥った子供達でした。なぜ小児は脳死肝移植を受けられなかったかというと、その当時の肝移植は脳死ドナーから取り出した丸々1個の肝臓を移植する方法しかありませんでした(現在では脳死ドナーから頂いた肝臓を2つに分けてそれぞれ2人の方に移植する方法が開発されましたが、当時の技術ではそれはまだできませんでした。)。脳死ドナーは拳銃で頭を撃たれた方や事故で頭部外傷を負った方など成人が圧倒的に多く、したがって成人の大きな肝臓がほとんどの場合用いられるため、体の小さな子供のおなかには肝臓が入りきらないため、小児患者さんに対する肝移植は、極稀に小児の脳死ドナー、即ち小さな肝臓が入手出来たときにしか行われませんでした。しかし、末期肝疾患を患う小児患者さんは非常に多数存在し、そういった子供達を救う手段はないものかと考えた末に出た答えが、肝臓の1部を切り取り、それを移植するという考え、即ち生体肝移植が考案されました。世界初の生体肝移植は1988年にブラジルで行われ、胆道閉鎖症の赤ちゃんにお母さんの肝臓の1部を切り取って赤ちゃんに移植が行われました。この生体肝移植という医療は、当初“健康人にメスを入れるなどもってのほかだ”という非難を受けることもありましたが、多くの末期肝疾患の子供のご両親から、生体肝移植を子供のために行ってほしい、という希望が殺到し、1990年頃にはアジアを含めた世界中で行われるようになりました。つまり、生体肝移植は小児の末期肝疾患の患者さんを救うために考案されたものなのです。

肝移植の方法について
肝移植には、生体肝移植と脳死肝移植の二つの方法があります。

生体肝移植では、健康な方(ドナー)から、肝臓の一部をいただいて、移植します。
一方、脳死肝移植は、脳死状態の方から、肝臓をいただきます。この場合、ドナーには、精神的負担はかかりません。しかし、我が国では、脳死肝移植症例数が伸び悩んでおり、日本では、現在でも、生体肝移植が主流です(図1)。

肝臓の解剖・機能
肝臓の解剖 (図2)。


肝臓は、主に4本の“管”により、人体に固定されています。

(1) 動脈
酸素を肝臓に送り届けます。

(2) 門脈
腸管で吸収された栄養分を肝臓に送り届けます。

(3) 肝静脈
役割を終えた肝動脈、門脈血流が肝静脈から、肝外へ出ていきます。

(4)胆管
肝臓が、“胆汁”という、脂肪の消化を助ける液体を産生しますが、胆管を通して、十二指腸へ胆汁が流れていきます。

 

肝臓の機能 (図3)


肝臓には、4つの大きな機能があります。

  • 養分の貯蔵
    門脈血液に乗った栄養分を、肝臓に貯蔵します。
  • 漿蛋白の合成
    貯蔵された栄養分を材料にして、さまざまな蛋白質を生成します。
    そのひとつに、血液止血作用をもつ“凝固因子”があります。そのため、肝機能が低下している場合は、出血傾向が出現することもあります。
  • 解毒、排泄
    体内に入った血液中の有害物質を活性の低い物質に変換して胆汁中に排泄します。
  • 血液ろ過
    門脈血流に乗って腸管から、細菌が体内に侵入してきます。肝臓には、“クッパー細胞”という細胞が存在していて、門脈血流中の細菌を捕らえて生体防御作用、つまり、血液の濾過作用を示します。肝移植が必要な末期肝硬変では、このクッパー細胞の数が減少するため、体内に細菌が蔓延する傾向があります。そのため、これらの肝臓の機能が損なわれた状態では、肝移植治療を考慮する必要があります。

肝移植のご希望の患者様が来院された場合
以下のような手続きをして、肝移植の適応を検討しています。
1. 原疾患の確認
現時点では、保険が適応できる疾患が決まっており、これらにあてはまるか、確認します。当てはまらない場合は、自費になる場合があります。
生体肝移植の対象疾患
(1)先天性胆道閉鎖症
(2)進行性肝内胆汁うっ滞症(原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎を含む)
(3)アラジール症候群
(4)バッドキアリ-症候群(肝静脈、下大静脈の閉鎖)
(5)先天性代謝性肝疾患(家族性アミロイドポリニューロパチーなど)
(6)多発性嚢胞肝
(7)カロリ病
(8)非代償性肝硬変(肝炎ウイルスやアルコール)
※アルコール性肝硬変の場合は、6ヶ月以上の禁酒が必要条件です。
(9)劇症肝炎(ウイルス性、自己免疫性、薬剤性、成因不明を含む)
(10)肝細胞癌(遠隔転移なし、血管侵襲なし、肝内に5cm以下1個、3cm以下3個以内)

  • 当院での肝移植実施疾患を(図4)に示します。

2. レシピエント候補の肝不全の程度を把握する。
つまり、肝移植を実施するとした場合、いつまでにしなければならないかを判定します。 これには、いくつかの指標があります。

(1) Child-Pugh 分類
Child-Pugh 分類で、C判定の場合は、末期肝硬変の状態に近く、このような場合は、肝移植実施を急いだほうがいいといわれています。
(2) MELD(Model for End stage Liver Disease score) スコア
MELD スコア15点以上は、肝移植を急いで実施したほうがいいと考えています。
(3) その他
劇症肝炎に対しては、劇症肝炎における肝移植適応のガイドライン(第22回日本急性肝不全研究会)などが使用されています。
ただし、これらの指標は、一つの目安なので、レシピエントの全身状態等を考慮し決定されます。

3. レシピエントの全身状態のチェック
肝臓の状態をチェックするとともに、全身状態のチェックをする必要があります。
以下の状態を認めた場合には、肝移植が施行できない場合があります。
1)年齢;66歳以上
2)多臓器のコントロール不可能な感染症が併存する。
3)多臓器に癌が合併している。
4)アルコールを含む薬物依存症
5)肝臓以外の重要臓器の機能低下
6)肺内の右→左シャントによる強い低酸素血症

4. ドナー候補がいるか
だれでもドナーになれるわけではありません。
当院では、以下を満たすことが必要条件となります。

  • 健康な成人(20-65歳)
  • レシピエントと血縁関係 (親族6親等内)、または、姻族3親等内にあること。
  • 悪性疾患や、感染症(結核など)がないこと。
  • 肝炎ウイルスマーカー陰性かつ肝機能が正常であること。
  • 高度の脂肪肝がないこと。
  • あげる肝臓(グラフト)の大きさがレシピエントにとって十分な大きさであること。かつドナー残肝が十分量残っていること。
  • ドナー手術の合併症、危険性、肝移植の限界を認識した上で、肝臓提供の意思があること。

ドナーの術後入院期間について
ドナーの方は、全例元気に退院されております。平均在院日数は、13日です。手術後、約1か月で社会復帰し、3か月以内に90%のドナの方が社会復帰を果たされています。

5. 倫理委員会での面談
ドナーの方に、肝臓提供の意思を最終確認します。
6. 麻酔科医師、看護師、集中治療部医師、消化器内科医師、消化器外科医師の合同カンファランス
手術の前日までに、麻酔科医師、看護師、集中治療部医師、消化器内科医師、消化器外科医師での合同カンファランスを開催し、レシピエント、ドナー双方についての手術時、手術後管理についての注意点を確認します。

当院での生体肝移植の成績
当院では2013年4月現在、58例の患者様に生体肝移植を施行しております。
生存率も、全国平均と比較して、遜色ない成績を維持しています(図5)。

 

さらなる生存率上昇にむけて。
肝移植後は急性拒絶反応発症をおさえるため、免疫抑制剤の使用が必須です。しかし、その一方で、感染症を合併率が、他の消化器外科手術に比較して高率といわれています。当院で施行した肝移植症例中、48。2%が敗血症に陥り、周術期の敗血症関連死は10。3%です。
そのため、免疫抑制剤の使用量は必要最低限に設定する必要があります。これまで、その投与量は「手探り」で決めているのが現状でした。しかし、十分な免疫抑制状態でなければ、急性拒絶反応が発症し、Graft loss に進展してしまいます。本来、患者様それぞれで、適切な免疫抑制状態は異なるため、当院では、Immuknow ® (CYLEX製)を使用し、周術期の免疫抑制状態を定期的にチェックするシステムを新たに導入しました。

終わりに
専門的な用語もあり、わかりにくい部分もあるかもしれませんが、ご理解いただけるまで、丁寧にご説明させていただきます。ドナー、レシピエント、そして、それぞれのご家族も含めて皆様がご納得していただきながら、肝移植の準備をさせていただきます。
ご不明な点は、気軽にご連絡ください。

                      ご連絡先
                       横浜市立大学消化器・腫瘍外科 講師
                       日本移植学会移植認定医
                        武田和永
                       TEL 045-787-2800 (病院代表)
                       FAX 045-782-9161

 

 

 

 

 

 

 

 

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